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 相続税申告前後に留意すべき相続法・税法Q&A





 
 

【問題1】遺言書の存否の確認方法

被相続人が生前に遺言を作成していたかどうかを調査する方法はありますか?

 

【回答】

 遺言が公正証書遺言の場合には、公証人役場において、「遺言登録システム」による検索・照会を行うことで遺言書の存在・内容を知ることが可能です。
 秘密証書遺言の場合も公証人役場での検索は可能ですが、公正証書遺言と異なり、秘密証書遺言を作成したという事実が公証人役場に記録として残るにとどまり、内容までは記録保管されません。
 それ以外の遺言の場合、例えば、自筆証書遺言の場合には、そのような制度はないため、相続人や受遺者などの利害関係人に対する聞き取りを行うしかありません。
 
 

【解説】

1 公正証書遺言の存否の確認方法

  平成元年1月以降になされた公正証書遺言については、公証人役場において、「遺言登録システム」による検索・照会を行うことが可能です。

相続人その他利害関係人(受遺者、遺言執行者など)及びそれらの者の代理人が申請することができますが、遺言者の存命中は、遺言者本人以外、申請することはできません。

また、申請時に依頼すれば、申請した公証人役場の公証人の名前で、検索結果を書面にて通知してもらうこともできます。公正証書遺言の存在が判明した場合には、その公正証書遺言を作成した公証人役場において、正本(権限のある者によって原本に基づき作成され原本と同一の効力を有する謄本)・謄本の交付申請を行うこととなります。

なお、公証人役場における原本の保管期間は、原則として20年間(公証人法施行規則27条第1項)、もしくは遺言者が100歳に達するまでのいずれか長い期間とされているようですが、各公証人役場で取り扱いが異なりますので注意が必要です。

2 公正証書遺言以外の遺言の存否の確認方法

  これに対し、公正証書遺言や秘密証書遺言以外の遺言、例えば自筆証書遺言の場合には、遺言登録システムによる検索・照会を行うことはできません。そのため、相続人や受遺者などの利害関係人に対する聞き取りを行うこととなります。遺言者本人が自筆証書遺言を信頼のおける人物、弁護士等に預けている場合もありますので、これらの者に対する聞き取りを行うことも必要です。

 

【問題2】遺言書の検認

遺言書を見つけたらどうすればいいですか?検認をしなければ遺言書は無効となるのですか?遺言書の存在を黙っていたり、隠したりしたらどのような不利益がありますか?

 

【回答】

 公正証書遺言以外の遺言の保管者又は発見者は、必ず遺言書検認の申立をしなければならず、封印のある遺言は家庭裁判所において開封しなければなりません。

検認をしなくても、遺言そのものが無効となるものではありませんが、その後、遺言の効力が争われる可能性が高くなりますので、検認は必ずしておくべきです。また、自筆証書遺言そのものには遺言者の押印がなく、封印されているような場合(遺言の入っている封筒に押印されている場合)、検認をせずに開封してしまったような場合には、仮に検認していれば、有効な自筆証書遺言であると判断される余地があったにもかかわらず、遺言そのものが無効と判断されることとなるので注意が必要です。

遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した人は、相続欠格者となり、相続できなくなります。

 

【解説】

1 検認

検認とは、相続人に対し遺言の存在を知らせるとともに、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。一種の証拠保全手続であり、遺言の方式に関する一切の事実を調査します。

2 手続

  公正証書遺言以外の遺言の保管者又は発見者は、必ず遺言書検認の申立をしなければならず、封印のある遺言は家庭裁判所において開封しなければなりません。これを怠ると5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。開封手続と検認手続は、遺言書検認の申立を行えば、同じ手続でなされます。

  申立の際には、遺言者について生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本等と現在の相続人との相続関係を立証するに足りる戸籍謄本等を添付する必要があります。管轄は、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所となります。

家庭裁判所が検認申立を受け付けると、戸籍上の相続人を確定し、その相続人全員に遺言書検認期日の通知書を発送し、立ち会わなかった相続人らには検認済みの通知が送られます。

3 遺言の効力

検認では、遺言の中身についての有効、無効を判断するものではないため、検認後に有効、無効を争うこともできます。なお、明らかに無効な遺言だとわかっていても、検認申立はしなければなりません。遺言書と題されているにもかかわらず、法定遺言事項が記載されていないからといって検認申立が不要となる訳ではなく、遺言書が複数存在する場合には、そのすべての遺言書について検認申立が必要となります。

この点、遺言の入っている封筒に押印されていたにもかかわらず(封印)、遺言書そのものには押印されていなかったというような場合、家庭裁判所において開封し、検認手続を経ていれば、全体として有効な遺言と判断されるにもかかわらず、家庭裁判所以外で開封してしまったために、遺言書そのものが無効とされてしまうことに注意が必要です。

4 その他

  この検認手続きが終わらないと、実務上、遺言書内容を実現することが困難となります。例えば、遺言書に基づく預金の引き出しや、不動産に関する所有権移転登記手続などです(相続による所有権移転の登記申請書に自筆証書遺言を添付する場合には、その遺言は検認を経たものでないと、実務上、登記手続が却下されます)。また、遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した人は、相続欠格者となります(民法第891条第5号)。

 

【問題3】遺言を無視した処分

父の遺産分割協議がまとまる前に、兄が勝手に遺産の土地(遺言書では私に遺贈するとあります)を第三者に売却してしまう可能性がありますが、大丈夫でしょうか?遺言執行者がいない場合にはどうしたらいいのでしょうか?

 

【回答】

 遺言執行者とは、遺言の内容を実現することを職務として、指定または選任された者をいいます。遺言で予め遺言執行者を指定されている場合、相続開始後に、相続人が遺言内容を無視して勝手に相続財産を処分したとしても無効となり(絶対的無効)、遺言内容の執行実現性が確保されます。遺言で遺言執行者が指定されていない場合には、相続人が家庭裁判所に申し立てることにより、遺言執行者が選任されます。

 

【解説】

1 遺言執行者

遺言執行者とは、遺言の内容を実現することを職務として、指定または選任された者をいいます。未成年者や破産者は遺言執行者となることができません(民法1009条)。個人は勿論、法人でも遺言執行者となることができます。

2 法的地位

  民法1015条は、遺言執行者は相続人の代理人とみなすと規定しています。

遺言執行者には、民法10122項、1020条により、委任の規定が準用され、委任契約の受任者の地位にあります。しかしながら、遺言執行者は、遺言内容を実現するためには相続人の利益に反する行為(推定相続人の廃除(民法893条)など)も行わなければならないことから、この規定の解釈が問題となります。

学説では、①相続人代理説、②遺言者代理説、③職務説等が主張されていますが、遺言執行者の権限、行為の効果についての結論は、いずれの説によっても変わるものではない以上(実務解説・遺言執行21頁)、議論の実益はなく、「相続人の代理人として取り扱われるのは、遺言執行者の財産上の行為の効果が相続人に帰属するという点においてであって、これ以上の意味をもつものとはいえない」と解されています(双書235頁)。

なお、判例は①相続人代理説の立場をとっていますが、最判昭30.5.10民集96657頁は、「遺言執行者の任務は、遺言者の真実の意思を実現するにあるから、民法1015条が、遺言執行者は相続人の代理人とみなす旨規定しているからといって、必ずしも相続人の利益のためにのみ行為すべき責務を負うものとは解されない」と判示しています。

3 遺言執行者の決定

 ①遺言による指定

  遺言者が遺言執行者を指定する場合には、必ず遺言によらなければなりません(指定もしくは遺言により指定の委託を受けた第三者からの指定)。生前契約によって遺言執行者を決めることはできません。

  遺言執行者の指定を受けた者は、就任を受諾することも拒絶することも自由ですが、就任する時は、遅滞なく相続人に就任を受諾する旨を通知することが必要です。

 ②家庭裁判所による選任

  遺言執行者の指定がない場合、委託者が委託を辞任した場合、指定された者が辞任、死亡、その他の事由で遺言執行者がいない場合には、利害関係人の請求により、相続開始地の家庭裁判所が遺言執行者を選任します(民法1010条)。ここで利害関係人とは、相続人、受遺者、相続債権者、受遺者の債権者、相続財産管理人等をいいます。

  選任申立を受けた家庭裁判所は、遺言の内容が執行を必要としないと判断した場合には、選任の利益を欠くものとして申立を却下することに注意が必要です。

4 遺言執行者によらなければ執行できない遺言事項

 ①死後認知の届出

 ②家庭裁判所に対する相続人の廃除又はその取消しの請求

 ③一般財団法人の設立

5 遺言執行者の復任権

  遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることはできません(民法1016条第1項)。やむを得ない事由とは、例えば遺言執行者が病気になり、しかも辞任に適しない場合など限定的に解されています(なお、遺言者が遺言で復任を許した場合は複代理人を選任することが可能です(民法1016条第1項但書)。

遺言執行者が全面的に自己の代わりに第三者に遺言執行者としての地位に就かせたり、相当包括的に遺言執行上の事務を第三者に代行させることが禁止されているものの、遺言執行者が自ら事務を処理する上で履行補助者を使用することは差し支えなく、遺言執行上の事務の一部ないし個々の行為について代理権を授与したり、事務を代行させることは可能です。

6 遺言執行者がある場合の相続人の処分行為等の制限

遺言執行者がある場合には、相続人は、遺言の対象となった相続財産について、処分その他遺言の執行を妨害するような行為はできません(民法1013条)。

相続人が処分行為等の制限に反してなした行為は、何人に対しても無効を主張することができます(大判昭5616日大審院民集9550頁、最判昭62423日)。

遺言執行者が遺言で指定されている場合には、相続開始時から相続人の処分権は制限されます。他方で、遺言執行者が指定されておらず、家庭裁判所に選任申立をした場合には、相続人の処分権は選任審判が確定したときに制限されることとなります。

したがって、遺言執行者に指定された者が就任を承諾する前になされた相続人の行為についても民法1013条の効力が及び、相続人の処分行為は相続開始時に遡って無効となりますが、遺言執行者が指定されておらず、かつ、遺言執行者が選任される前に行った相続人の処分行為は効力を失うことはありません。そのため、最初から遺言で遺言執行者を指定しておくと、遺言内容の執行実現性がより確保されることとなります(ただし、その場合でも、指定されていた遺言執行者が就任を拒絶した場合には遡及効は及びません)。

 

【問題4】所在不明の相続人

相続人のうち、所在不明の人物がおり、遺産分割ができないのですが、どうすればいいのでしょうか?その場合の注意点は何でしょうか?

 

【回答】

 家庭裁判所に、不在者財産管理人選任の申立を行い、不在者財産管理人が不在者の法定代理人として遺産分割協議に参加します。不在者の法定相続分相当額が100万円にも満たない場合には、特定の相続人に対し、不在者が帰来した場合には当該相続人から不在者に対して不在者の法定相続分を弁済することを確約させた上で当該相続人に委ねてしまうやり方も行われます。失踪宣告については、遺産分割協議が成立した後で申立をしてもらうようにするのが得策です。

 

【解説】

1 不在者財産管理

  相続人中に行方不明者がいる場合には、遺産分割協議ができませんので、行方不明者のために不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることとなります。申立先は、不在者の最後の住所地を管轄とする家庭裁判所となります。不在者財産管理人選任の前提として、家庭裁判所が不在者の調査を行います。不在者財産管理人選任後も不在者財産管理人自身が不在者の調査を行います。これら調査によって、不在者の所在が判明する場合もあります。

2 遺産分割協議への参加

  不在者の所在が判明しない場合には、不在者財産管理人が不在者の法定代理人として遺産分割協議に参加します。不在者の法定相続分相当額が100万円にも満たない場合には、帰来時弁済といって、特定の相続人に対し、不在者が帰来した場合にはその相続人から不在者に対して不在者の法定相続分相当額を弁済することを確約させた上で、不在者が取得すべき法定相続分相当額をその相続人に委ねてしまう方法もあります(ただし、家事審判官によっては帰来時弁済を認めないこともあります)。

3 失踪宣告との関係

  不在者である相続人に子などの推定相続人がいる場合には、その推定相続人が不在者の失踪宣告の申立を行う場合もあります。この点、遺産分割協議が成立する前に失踪宣告の審判が確定してしまうと、不在者の代襲相続人や不在者の相続人が被相続人の遺産分割協議に参加することとなり、場合によっては事態が紛糾することも考えられますので、失踪宣告については、できれば、遺産分割協議が成立した後で申立をしてもらうようにするのが得策です。

 

【問題5】遺言と異なる遺産分割

遺言と異なる内容で遺産分割はできますか?

 

【回答】

 遺言があっても、遺言執行者がいない場合には、相続人全員(相続人以外への遺贈があれば受遺者も含む)の同意があれば遺言と異なる内容での遺産分割をすることは可能です。これに対し、遺言で遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者が同意しており、かつ合意の内容が遺言の趣旨を基本的に没却するものではないことを条件に有効とする裁判例が存在しますが、あくまでも例外的な取り扱いです。

 

【解説】

1 遺言執行者がいない場合

  遺言があっても、遺言執行者がいない場合には、相続人全員(相続人以外への遺贈があれば受遺者も含む)の同意があれば遺言と異なる内容での遺産分割をすることは可能です(熊本地判昭和30111日下民集611頁、中川・泉・相続(4)306頁)。

2 遺言執行者がいる場合

  東京地判昭和63531日(判時130590頁・判タ683181頁)は、遺言執行者の同意のもとに、合意が利害関係を有する関係者全員(相続人・受遺者)でなされ、かつその履行として処分行為がなされた場合に、民法1013条の目的に反するものではないとして相続財産の処分行為を有効としました。
 しかしながら、その後の東京地裁平成元年2月27日判決、大阪地裁平成6年11月7日判決、東京高裁平成11年2月17日判決、東京地裁平成13年6月28日判決では、いずれも遺言執行者が遺言と異なる内容での遺産分割協議に同意していないことを前提に、遺言で触れられていない財産や放棄された特定遺贈については遺言内容と異なる遺産分割が可能であるものの、それ以外については否定的な立場をとっています。

 

【問題6】課税負担の錯誤に基づく更正の請求

 夫が死亡し、妻である私、子3人が相続人です。夫が有していた同族会社A社(非上場会社・大会社)の株式の遺産分割にあたり、株式の評価につき類似業種比準価額ではなく、それよりも評価額が低くなる配当還元方式となるように、私が取得する株式の議決権割合が同族会社A社の議決権総数の4%(5%未満)とする株式数を相続する旨の遺産分割協議書を作成し、相続税の申告を行いました。これらは税理士さんの助言を元に、申告してもらったものです。

ところが、申告後に、配当還元方式による評価ができないことが判明しました。

というのも、同族会社A社の株主として株式会社B社が存在するところ、同族会社A社は株式会社B社の議決権総数の4分の1を超える株式を有していることから、財産評価基本通達188-4により、同族会社A社の議決権総数から株式会社B社が保有する同族会社A社の議決権数を控除しなければならず、その結果、私が取得する株式の議決権割合が同族会社A社の議決権総数の5%を超えることとなったからです。相続税申告当時、お願いしていた税理士さんも財産評価基本通達188-4には気づいていなかったということでした。

そのため、相続人間で、再度、遺産分割協議を行い、株式会社B社の有する議決権数を控除して計算しても、私が取得する株式の議決権割合が5%未満となるような遺産分割協議を行い、更正の請求をしようと考えていますが、このような更正の請求は認められるでしょうか?それとも、更正の請求をせずに、課税庁から更正処分がなされるまで待ち、更正処分の不服申立手続を行うほうがいいのでしょうか?

 

【回答】

 法定申告期限後は、課税庁に対し、原則として、課税負担の錯誤を理由として遺産分割が無効であるとの主張をすることはできませんが、①申告者が更正の請求期間内に、かつ、課税庁の調査時の指摘、修正申告の慫慂、更正処分等を受ける前に、自ら誤信に気づいて更正の請求をし、②更正の請求期間内に新たな遺産分割の合意による分割内容の変更をして、当初の遺産分割の経済的成果を完全に消失させており、かつ③その分割内容の変更がやむを得ない事情により誤信の内容を是正する一回的なものであると認められる場合には、更正の請求が認められるとした裁判例が存在します。

他方で、更正の請求をせずに、課税庁から更正処分がなされるまで待ち、更正処分に対する不服申立・税務訴訟を行った場合には、従来の判例により、遺産分割の錯誤無効を主張することができません。

 

【解説】

1 課税負担の錯誤に関する過去の裁判例

従来の裁判例では、納税義務の発生原因となる私法上の法律行為に係る課税負担の錯誤、すなわち、当該法律行為の際に予定していたよりも重い課税負担が生じることが事後に判明した場合には、そのような課税負担の錯誤による当該法律行為の無効を主張することはできないとされていました(高松高判平成18223日、最高裁平成10127日、最高裁平成13413日等)。

  法定申告期限の経過後も更なる課税負担の軽減のみを目的とする課税負担の錯誤の主張を安易に認めて納税義務を免れさせたのでは、租税法律関係が不安定となり、納税者間の公平を害し、申告納税方式の破壊につながるというのが理由です。

2 過去の裁判例の射程範囲

しかしながら、これらの事案は、いずれも納税者が更正の請求期間内に更正の請求の手続をとることなく、更正請求期間が経過した後に、課税庁の調査時の指摘、修正申告の慫慂、更正処分等を受けたことを契機として、課税負担の錯誤に気づき、更正処分等の取消訴訟において課税負担の錯誤による当該法律行為の無効を主張した事案です。

3 本件の特殊性(法定申告期限後で税務署からの指摘前)

他方で、納税者が課税庁の指摘等によらず、自ら課税負担の誤信に気づき、更正の請求期間内に遺産分割の再協議を経て更正の請求の手続をとった案件につき、東京地裁平成21227日判決は、①申告者が更正の請求期間内に、かつ、課税庁の調査時の指摘、修正申告の慫慂、更正処分等を受ける前に、自ら誤信に気づいて更正の請求をし、②更正の請求期間内に新たな遺産分割の合意による分割内容の変更をして、当初の遺産分割の経済的成果を完全に消失させており、かつ③その分割内容の変更がやむを得ない事情により誤信の内容を是正する一回的なものであると認められる場合にように、更正の請求期間内にされた更正の請求においてその主張を認めても、租税法律関係が不安定となり、納税者間の公平を害し、申告納税方式の破壊につながるといった弊害が生ずるおそれがなく、申告納税制度の趣旨・構造及び租税法上の信義則に反するとはいえないものと認めるべき特段の事情があるには、例外的に認められるとの判断を示しました。

4 法定申告期限前の遺産分割のやり直し

以上は法定申告期限後の課税負担の錯誤を理由とした遺産分割の無効主張についてです。

これに対し、法定申告期限が経過するまでに、当初予定していたよりも重い納税義務が生ずることに気づいた場合の錯誤無効の主張、及び遺産分割協議のやり直しについては、無条件で許されるとするのが学説です(金子宏・租税法(第16版)弘文堂・115頁)。

しかしながら、当初の遺産分割に基づく名義変更・移転登記等がなされている場合には、上記東京地裁平成21227日判決の趣旨、及び下記相続税個別通達の趣旨からすると、新たな遺産分割協議に基づいた遺産の配分・財産移転・移転登記等がなされているなど当初の遺産分割の経済的成果を完全に消失させており、かつできる限り、1回きりの遺産分割の変更とすることが実務上、無難であると考えます。

 

   ※贈与契約の取消・解除等(合意解除を含む)に関し、例外的に贈与がなかったものとして取り扱われるものは、以下のような要件をすべて満たし、贈与税を課すことが著しく負担の公平を害する結果となる場合に限るものとしている(昭39.7.14直審(資)344項)。

①贈与契約の解約が贈与のあった年分の贈与税の申告書提出期限までに行われ、かつ、財産をもとの名義に変更したことが確認できること。

②贈与の目的財産が受贈者により処分・担保設定されるか、租税その他の債務に関し差押えやその他処分の目的となっていないこと。

③当事者が贈与を受けた財産について非課税貯蓄申告などをしていないこと。

④受贈者が果実を収受していないこと。収受したときは、その果実を贈与者に引き渡していること。

 

※財産評価基本通達188-4

   188(同族株主以外の株主等が取得した株式)の()から()までにおいて、評価会社の株主のうちに会社法第308条第1項の規定により評価会社の株式につき議決権を有しないこととされる会社があるときは、当該会社の議決権の数は0として計算した議決権の数をもって評価会社の議決権総数となることに留意する。

 

【問題7】遺産分割のやり直し

              父が亡くなり、相続人は母と長男、次男の3人です。遺産分割協議では、長男な高齢の母に月々一定額の金員を支払い扶養するとの条件のもとで、長男が次男よりもより多くの遺産を取得する内容とし、合意しました。ところが、その後、長男は約束をまったく守りません。このような場合、遺産分割協議を解除して遺産分割協議のやり直しをすることができるでしょうか?認められない場合、その他、税務的にも問題のない方法はないでしょうか?

       【回答】      

       長男が母親を扶養しないことを理由とした解除(債務不履行解除)は認められません。相続人全員による合意のもとで、遺産分割を解除すること(合意解除)は法的には可能ですが、新たに遺産分割をやり直した場合、その時点で、財産移転が生じたものとして、贈与税が課される危険性があります。

【解説】

1 債務不履行解除

この点、相続人の1人が、高齢の母親を扶養するという債務を履行することを条件に、より多くの遺産を相続するとの遺産分割協議がなされたものの、その後、当該債務が履行されなかった案件につき最高裁判例は、「共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の1人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である」として、遺産分割協議の債務不履行解除を否定しています(最判平成元年29)

 その理由として同最判は、仮に遺産分割協議の解除を認めると遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることを挙げています。

2 合意解除

債務不履行解除の主張が困難な場合、相続人全員が合意すれば、当初の遺産分割を合意解除することが可能です。この点につき最高裁判例は、「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではない」とし、合意解除が可能であることを認めています(最判平成2927日)。

ただし、当初の遺産分割を合意解除して新たに遺産分割をやり直した場合には、当該合意解除が国税通則法第23条第2項第3号に規定する「やむを得ない理由」に該当しないとして、税務上、遺産分割でなく贈与がなされたものと認定され贈与税が課される危険性が十分にあります。

3 その他の方法

その他、税務的にも問題のない方法としてどのようなものがあるでしょうか。

仮に、当初の遺産分割にあたり、今回、長男がより多くの遺産を取得するのは、あくまでも高齢の母親の扶養をするから」といった動機のもとに相続人間で遺産分割協議がなされた場合で、当該動機が黙示的にも表明され、重過失なき場合には、当初の遺産分割協議を動機の錯誤(民法95条)として無効主張することが考えられます(次男の場合)。

この点、前記東京地裁平成21227日判決も、一般論として、このように分割内容自体の錯誤が要素の錯誤に該当することにより無効主張が認められる場合には更正の請求ができることを認めていますが、要素の錯誤(表意者のみならず通常人であってもそのような錯誤がなかったならばそのような意思表示を行わなかったといえるか)、ないし重過失があるか等について慎重な検討を行う必要があります。 

 

【問題8】遺産分割がまとまらない場合のデメリット

 相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合にはどうすればいいのですか?また、遺産分割協議はいつまでにしなければならないのですか? 遺産分割協議がなされなかったり、放置しておくと、どのようなデメリットが生じますか? 

 

【回答】

 遺言が存在しない場合、相続人間での協議によって分割し、協議さえまとまれば、法定相続分に従わない分割も有効です。しかしながら、協議がまとまらない場合には、遺産分割の調停を申し立てなければならず、調停でもまとまらない場合には、最終的には審判が下されます。審判分割の場合には、基本的には法定相続分に従った分割がなされることとなります。遺産分割協議は、民法上は、いつまでにしなければならないという規定は存在せず、現に、20年前の相続に関して遺産分割協議がなされることも少なからず存在します。

ただし、税務上のデメリットとして、遺産分割協議が一部でもなされなかったり、放置しておくと、配偶者税額軽減等の特例適用が認められなくなる危険性があります。

 

【解説】

1 遺産分割協議がまとまらない場合

最終的に、遺産分割調停によっても協議がまとまらない場合には、家庭裁判所において審判が下されます。審判分割による場合は、基本的には、法定相続分に従って分割がなされることとされています。

この点、民法906条は、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と規定していますが、これは、遺産の分割を「実行」する際の指針を定めたものと考えるのが一般的です。つまり、遺産の「分割」は法定相続分に従ってなされなければなりませんが、その分割の「実行」、たとえば遺産の中に土地や建物、預金などがある場合に、土地や建物は現在居住している者に取得させなどして分割すべきであることを定めた規定と考えられています。

2 遺産分割協議の時期

  遺産分割協議は、民法上は、いつまでにしなければならないという規定はありません。そのため、相続開始後、何十年も経過した後に、遺産分割協議がなされることもありえます。ただし、後述するとおり、税法上の不利益が存在します。

 3 税務上の不利益

(1)相続税の申告期限までに、相続人間において遺産分割がなされていない場合には、相続税の計算上、以下の特例の適用を受けることができません。

   ① 配偶者の税額軽減制度
② 小規模宅地等の課税価格計算の特例
  特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例 

   ④ 相続税の延納・物納

    ⑤ 農地等の相続税の納税猶予

    ⑥ 取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予

ただし、上記①~③については、相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、申告期限から3年以内に遺産分割がなされた場合には、遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことで適用を受けることができます。

相続について調停の申立、訴えの提起、その他3年以内に分割されないことにつきやむを得ない事情がある場合には、申告期限から3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに承認申請書を提出し、税務署長の承認を得たときは調停成立の日等まで延長されます(相続税法19条の22項、相続税法施行令4条の2、相続税法規則16、相続税法基本通達192-10)。

(2)留意点

  上記①から⑥の特例は、適用を受ける財産についてだけでも遺産分割がなされていれば適用可能です。 

   なお、遺言により配偶者が取得するものとされている財産、みなし相続財産である配偶者を受取人とする生命保険金や退職金は、遺産分割を必要とせずに、配偶者の相続分として確定する結果、配偶者の税額軽減の対象となるため、遺産分割が行われていない場合も、この部分についての税額軽減の適用申請が必要でした(相続税基本通達192-4・相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産で相続税の課税対象となったものについても同様(相続税基本通達192-4))。

  このように、配偶者の税額軽減に関しては、当初申告の際、申告書に適用金額を記載した場合に限り、適用が可能とされていましたが、平成23年末の税制改正により、当初の申告書での適用金額を失念した場合であっても、更正の請求(又は修正申告書)の提出によって事後的に適用を受けることができるようになりました。

 

【問題9】相続法と税法の違い(1)

 遺産分割協議において、被相続人が残した財産を相続人間で法定相続分に従って分けようという話が相続人Aからなされていますが、Aは5年前に土地の贈与を受けています。このような贈与は遺産分割協議で何ら考慮されないのでしょうか。その場合、遺産や贈与の価値はいつの時点で評価するのでしょうか?Aが贈与された土地を既に売却している場合にはどうなるのでしょうか?

 

【回答】

 税務上は、相続開始時3年以内の生前贈与のみを課税価格に算入しますが、民法上は、相続人に対する特別受益であれば、時期を問わず持ち戻しの対象となり、相続時の財産に加算した上で、その合計額につき、遺産分割が行われます。

ただし、特別受益が一応の相続分を超過する場合については、超過分の返還は必要ではありませんが(遺留分を侵害している場合は別)、その相続において新たに財産を取得することができません。

 税務上、相続時に存在する財産については相続開始時の時価により、相続開始時3年以内の生前贈与については贈与時の時価により評価しますが、民法上、遺産の評価は遺産分割が現実に行われる時の、特別受益については相続開始時の時価によってそれぞれ評価します。

 Aが土地を売却している場合でも、相続開始当時、贈与当時の状態のままで存するものとみなした上で、そのような状態の土地を相続開始時の時価で評価した上で持ち戻しの対象とします。

 

【解説】

1 特別受益

  生前贈与のうち、相続人に対する婚姻、養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与は特別受益となり、時期を問わずに持ち戻しの対象となります。

生計の資本としての贈与とは、例えば、子が別の世帯をもつ最に不動産を分与された場合、営業資金を贈与された場合などに限らず、生計の基礎として役立つような贈与は一切これに含まれるとされており、相当額の贈与は特別な事情がない限り、この特別受益とみて差し支えないとさえ言われています。

2 遺産の評価時期

  税務上、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、相続時における時価によるとされ(相続税法22条)、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうとされています(財産評価基本通達1(2))。

具体的な評価方法について特別の定めのあるものとしては、地上権、生命保険契約に関する権利、小規模宅地等がありますが(相続税法23条~26条の2、租税特別措置法69条の4)、その他の財産の評価は、実務上は財産評価基本通達に定める方法により評価されています(財産評価基本通達1(2))。

ただ、この通達は、国税庁長官が課税庁における評価方法の内部的取り扱いの統一と納税者の申告の便宜のために定めたものにすぎないことから、通達に基づく評価額が時価といえず、より的確に時価を把握できる場合にはそれによることを認めた判例があります(名古屋高判昭和55324日、東京高判昭和56128日)。

  これに対し、民法上、遺産の配分は遺産分割協議によって確定し、それによって各相続人が単独で取得財産の処分権を得ることになります。とすれば、遺産の評価も単独で有効な処分権限が認められない相続発生時よりも、処分権が発生する遺産分割時を基準にするほうが公平といえます。

そのため、民法上の遺産の評価は、遺産分割が現実に行われる時を基準にします。

ただし、各財産を遺産分割時の価値に評価しなおす手間が煩わしいため、例えば、相続税申告書に記載された評価額を基準にし、遺産分割時の評価は問題にしないということも、それが妥当かどうかは別として、相続人全員の合意のもとで事実上行われています。

3 特別受益の評価時期

  税務上、加算される相続開始前3年以内の贈与については、贈与時の時価となります(相続税法22条、相続税基本通達19-1)。

これに対し、民法上の特別受益の評価の基準時は、相続開始時の時価とするのが通説・判例です。したがって、受贈の目的が物(動産・不動産)である場合には相続開始時の時価によることは勿論ですが、金銭の場合でも、贈与の金額を相続開始時の貨幣価値に換算評価すべきことになります(最判昭51318日民集302111頁)。

4 贈与の目的物の譲渡

  贈与の目的物が受贈者によって譲渡された場合でも、相続人間の公平を維持するため、その目的物が相続開始当時、贈与当時の状態のままで存するものとみなした上で、そのような状態の目的物を相続開始時の時価で評価して持ち戻しの対象とします(民法904条)。この場合、譲渡のみならず、受贈者の故意・過失によって目的物が滅失した場合も含みます。

 

           

【問題10】相続法と税法の違い(2)

  

        私(A)は、父がなくなる2年前に相当の生前贈与を受けています(相続時精算課税ではなく、通常の贈与によるもので贈与税は納めています)。相続人には私の他に兄がおりますが、相続時において、父の遺産はほとんどありません。なお、父の介護は兄がほとんど行っておりました。このような場合、相続放棄をしたほうがいいのでしょうか?相続放棄をすることで法律上、税務上、デメリットとなることはありませんか?生前贈与ではなく、私を受取人とする生命保険金(契約者(保険料負担者)・被保険者とも父)を受け取った場合はどうでしょうか?

        

 

【回答】

 税務上のメリット・デメリットにほぼ差異がない以上、遺留分減殺請求が認められにくい相続放棄を行うほうがAにとってはメリットがあるものと考えられます。生命保険金については、一概には言えませんが、相続放棄を行うほうが有利といえます。

 

【解説】

1 遺留分制度

  被相続人が有していた相続財産について、その一定割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度です(民法1028条以下)。遺留分を有する者は、兄弟姉妹以外の法定相続人、すなわち、配偶者、子、直系卑属となります(民法1028条)。

相続欠格者、相続を廃除された者、相続を放棄した者は、相続人ではないことから遺留分権利者とはなりません。相続欠格及び相続人の廃除の場合は、代襲者が相続人となり、その者が遺留分権利者となりますが(民法1044条、8872項、3項)、相続放棄の場合には、代襲者が遺留分権利者となることはありません。相続財産に対する総体的遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人である場合は、相続財産の3分の1、その他の場合は2分の1となります(民法1028条)。

2 遺留分額の算定

  遺留分算定の基礎となる財産額は、

   被相続人が相続開始時に有していた財産額

+贈与財産の価額-相続債務の全額

  となりますが、上記「贈与財産の価額」は以下の贈与に限定されます。

  ・相続人以外の者に対する贈与

   ①相続開始前の1年間にした贈与

   ②遺留分権利者に損害を加えることを知ってなした贈与

  ・相続人に対する贈与

   ③特別受益(※)としての贈与(時期を問わない)

 特別受益としての贈与とは、婚姻、養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与をいいます。

3 相続放棄した者に対する遺留分減殺請求

  遺留分額の算定にあたり、特別受益の遺産への持ち戻しを定めている民法903条は、「共同相続人中に」被相続人から特別受益を受けた者があるときは、それを遺産に持ち戻して計算する旨規定しています。そのため、相続放棄を行った者は、相続開始時に遡って、そもそも共同相続人ではなくなるため、特別受益の持ち戻しをしなくてもよいこととなります。そして、相続放棄をした者に対する贈与は、相続人以外の者に対する贈与となるため、上記①②の贈与に該当しない限り、遺留分減殺請求がなされることはありません。

4 遺留分権利者に損害を加えることを知ってなした贈与

  被相続人及び受贈者の双方が、遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与は、相続開始より1年以上前のものであっても加算されます(民法1030条後段)。

  ここで、「損害を加えることを知って」とは、遺留分権利者を害する意思までは不要で、贈与契約時に遺留分を侵害する事実を認識していれば足りるものの(大判昭和9915日民集131792頁)、将来においても被相続人の財産が増加することがないことを予見していることが必要とされています(大判昭和11617日民集151246頁)。将来においても被相続人の財産が増加することがないと予見していることまで必要とされるのは、被相続人が相続開始時までに遺留分に見合う財産を残せると考えてなした処分行為にまで加害の意思を認めるのは、被相続人の財産処分の自由を制限しすぎるからと説明されています(中川・新注民(28)465頁)。

5 本問の検討

(1)生前贈与の場合

 ①相続放棄をしない場合

相続人であるAに対し相当額の贈与がなされている以上、特別受益とみなされる可能性が高く、持ち戻しの対象となり、遺留分減額請求の対象となってしまいます。

税務上においては、相続開始3年前以内の贈与であることから課税価格の額に算入し相続税を計算しますが、相続税額が過去に納税した贈与税額よりも少ない場合であっても、その差額分について贈与税が還付されることはありません(相続時精算課税を選択した場合は異なります)。

 ②相続放棄をした場合

相続放棄をした者に対する贈与は、相続人以外の者に対する贈与となるため、①相続開始前の1年間にした贈与、又は②遺留分権利者に損害を加えることを知ってなした贈与に該当しない限り、遺留分減殺請求がなされることはありません。

本件では相続開始2年前になされた贈与である以上、①相続開始前の1年間にした贈与には該当せず、②遺留分権利者に損害を与えることを知ってなした贈与との認定がなされない限り、持ち戻しの対象とはなりません。

税務上においては、相続開始3年前以内の贈与ですが、相続放棄している以上、相続税基本通達19-3により、課税価格の額に算入されることはなく、Aに対する遺贈やみなし相続財産(生命保険受取金等)がなければ、Aに相続税が課されることはありません(相続税基本通達3-3、相続税法13)。

 ③結論

 

相続放棄をしてもしなくても、贈与税の還付がなされないのであれば、立証責任の関係上、遺留分減殺請求が認められにくい相続放棄を行うほうがAにとってはメリットがあるものと考えられます。

 

(2)生命保険の場合

   ①相続放棄をしない場合 

   民法上、生命保険金については相続財産に含まれませんが、特別受益として持ち戻しの対象となるかが問題となります。

  この点、最高裁判例(平成161029日)は、原則として持戻しを否定し、例外として、保険金受取人である相続人と他の共同相続人との間に生ずる不公正が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持戻しの対象とする旨判示しました。

この特段の事情の有無として、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、同居の有無、被相続人の介護に関する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきとしています。

本件では、相続開始時の遺産がほとんどないこと、兄が父の介護をしていたこと等から、特別の事情が認められやすく、その場合、遺留分減殺請求の対象となります。

他方、税務上は、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。ただし、相続人1人につき500万円の非課税規定の適用があります。  

②相続放棄をした場合

民法上、生命保険受取金は相続財産ではないことから、相続放棄をしても生命保険金を受領することができます。

この点、上記の最高裁判例により持ち戻しの対象とならないか問題となりますが、最高裁判例は相続放棄を行っていない場合のケースであり、相続放棄を行っている場合には、当てはまりません。

相続放棄によって遡って共同相続人ではなくなる以上、①相続開始前の1年間にした贈与、又は②遺留分権利者に損害を加えることを知ってなした贈与に該当しない限り、遺留分減殺請求がなされることはありません。生命保険金の受領は上記①②のいずれにも該当しないことから、遺留分減殺請求の対象となることはありません。

他方、税務上は、相続放棄をしたとしても、相続税基本通達3-3(相続を放棄した者がみなし相続財産を取得した場合においては、その財産を遺贈により取得したものとみなされる)により、相続税の課税対象となり、かつ相続放棄したAについては、生命保険の非課税規定の適用を受けることができません(相続税基本通達12-8)。

 ③結論 

 本件では、相続放棄しない場合、生命保険金について遺留分減殺請求の対象となる可能性が高いことから、生命保険金の額にもよりますが、相続放棄をしたほうが、Aにとって有利となる場合が多いものと考えられます。

 

 ※相続税基本通達19-3

 相続開始前3年以内に当該相続に係る被相続人からの贈与により財産を取得した者(当該被相続人を特定贈与者とする相続時 精算課税適用者を除く。)が当該被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった場合においては、その者については、法第19条の規定の適用がないのであるから留意する。なお、当該相続時精算課税適用者については、当該相続人から相続又は遺贈によって財産を取得しなかった場合であっても、同条の規定の適用があることに留意する。


なお、これら問題点、その他相続問題の法務と税務に関する問題点については、
当職執筆の「税理士が実際に悩んだ相続問題の法務と税務」(清文社)にて詳細に解説しています。

                                

 

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